1一台売れると、いくら残るのか
出ていくお金は二つに分けます。売れた分だけ増える費用(変動費)と、売れても売れなくてもかかる費用(固定費)。売上から変動費を引いた残りが、限界利益です。一台売れるごとに残るお金で、これを積み上げて固定費を超えた分が、会社の利益になります。
業務用の洗浄機で、仮に置きます。本体300万円、変動費210万円(材料と組み立て、設置の実費、代理店への手数料)。一台の限界利益は90万円。年に20台で、1,800万円です(数字は説明のための仮定です)。
2一割の値引きの重さ
値引きしても、部品の費用も、定価で決まる手数料も下がりません。下がった分は、まるごと限界利益から引かれます。
- 一割(30万円)引くと、一台の残りは90万円から60万円。三分の一が消える
- 年に1,800万円を残し続けるには、20台ではなく30台が要る
- 1%(3万円)でも、一台の残りは90万円から87万円に減る
値引きで注文が1.5倍になるか。増えた台数を、設置する人がこなせるか。そこまで数えて、初めて値引きの損得が見えます。
3その場で痛む人が、商談の席にいない
値引きの痛みは、立場で違います。
| 立場 | 値引きで起きること |
|---|---|
| 顧客 | お金が軽くなる(ほかの心配は減らない) |
| 販売パートナー(手数料が定価で決まる形) | 痛まない |
| 営業(受注の金額で見られている) | 受注は受注 |
| メーカー | まるごと持つ |
その場で痛む人が、商談の席に一人もいません。 「値引きしないと」が会議で言いやすいのは、そういう構造だからです。営業の担当者を責める話ではありません。構造を変える話は、決裁の話です。
なお、販売店が仕入れて売る形では、逆になります。値引きはまず販売店の粗利から出るので、販売店は顧客に引く前に、メーカーに仕入れ値の引き下げを求めてきます。
4あとに残る影響
一度300万円を270万円にして売ると、その顧客の基準は270万円になります。次に買うときも、知り合いに話すときも。販売パートナーの頭の中にも同じ基準が残ります。理由を書けない値引きが続くと、顧客も販売パートナーも「待てば下がる」と覚え、定価の意味が薄くなります。
無料の点検や消耗品を付けたくなることもあります。それも値引きと同じ物差しに当てます。限界利益を削るか。人の時間を使うか。そして、その点検の基準価格を下げないか。
5値引きの実績を、一覧にする
決裁の材料になるのは、値引きの実績です。この一年、何件、いくら引き、理由は何で、誰が言い出し、そのあとどうなったか。並べると、理由を書けなかった値引きや、引いても止まった案件が見えてきます。値引きが決め手にならなかった案件がある、ということです。
やりがちな間違い
A社の場合
架空の会社の例
A社の社長は、値引きの実績の一覧を見て、決まりを置きました。理由を見積書に書ける値引きは、営業部長の判断でよい。期限で急がせる値引きと、理由を書けない値引きは、やらない。マーケティング課長の早川さんは、その決まりを一枚にして、代理店の担当者に渡しました。代理店が一番先に聞くのは、「どこまで引けますか」だからです。
ほかの業種なら
A社 業務用の洗浄機
| 値引きしても下がらない費用 | 部品、設置の実費、定価で決まる手数料 |
|---|---|
| 値引きのあとに残りやすい基準 | 顧客と代理店の「次もこの値段」 |
| 値引き以外で応える例 | 支払いの時期、日程の優先 |
B社 建材
| 値引きしても下がらない費用 | 材料、配送 |
|---|---|
| 値引きのあとに残りやすい基準 | 販売店が仕入れ値の引き下げを求める出発点 |
| 値引き以外で応える例 | 施工の説明の同行 |
C社 業務用のソフト
| 値引きしても下がらない費用 | 導入を支える人の時間 |
|---|---|
| 値引きのあとに残りやすい基準 | 毎月の利用料の値引きが、更新のたびに基準になる |
| 値引き以外で応える例 | 移行の作業の支援 |
D社 計測の機器
| 値引きしても下がらない費用 | 部品、据え付けと校正の実費 |
|---|---|
| 値引きのあとに残りやすい基準 | 商社の「言えば引いてくれる」 |
| 値引き以外で応える例 | 校正の初回分を、理由を書いて相殺 |
A社のほかは、考えるための仮の例です。
選んだ業種は、ほかの記事でも最初に開きます(この端末の中だけに残します)。トップでも選べます。
理解を確かめる
問1一台の限界利益が90万円の商品で、30万円の値引きをしました。同じ利益の合計を残すには、台数を何倍にする必要があるでしょうか。答えを見る
1.5倍です。一台の残りが60万円になるので、90÷60=1.5。20台なら30台が要ります。
問2「値引きしないと決まらない」が会議で言いやすいのは、なぜでしょうか。答えを見る
その場で痛む人が、商談の席にいないからです。顧客は軽くなり、手数料が定価で決まる販売パートナーは痛まず、受注の金額で見られる営業にとっても受注は受注。まるごと持つのはメーカーです。
やってみる
自分の会社の一件で
型04 三者で比べる
型4「三者で比べる」。値引きを一つ取り上げ、自社・販売パートナー・顧客のそれぞれで、受け取るもの・払うもの・手間がどう変わるかを書きます。自社の欄には、一台の残りと、同じ利益に要る台数を書きます。
- 何を決めたいか
- 案ごとに比べる
- やめ方
本では
本では 『選ばれる理由のつくり方』
この話が、人のあいだでどう進んだか。
第9章。営業会議で「値引きしないと、決まりませんよ」と言われた営業部長は、かつて自分も一割の枠を求めた人でした。
「値引きで注文が1.5倍になるか? 大西が1.5倍の台数をこなせるか?」
本について →本の該当箇所:第3章 第4節、第9章 第6・7節