1「価格」と言うとき、指しているものが違う
会議で「価格」と言うとき、人によって指しているものが違います。
| 段 | 中身 | 決める人 |
|---|---|---|
| メーカーの価格 | 定価と、値引きの枠 | 社長。相談を受けるのは営業 |
| 販売パートナーの条件 | 取り次ぐだけか、仕入れて自分の名前で売るか | 契約の形による。仕入れて売る形なら、売り値は販売店が決める |
| 顧客の総負担 | 本体、設置、毎年の費用、社内の説得や覚える手間 | 顧客 |
顧客が「高い」と言うとき、指しているのは三段めの総負担です。マーケティング担当者は価格そのものを決められませんが、総負担の見せ方と、価格を議論するための材料は、担当範囲で整えられます。
2頭の中の基準(参照価格)
顧客の頭の中には、価格を比べるための基準があります。前に買ったときの価格。ほかで見た価格。会社から言われている予算。これを参照価格と呼びます。基準より安いときの喜びより、基準より高いときの抵抗のほうが、大きく出ると言われています。
業務用の洗浄機で考えます。本体が300万円。同業の洗浄機が280万円なら、それと比べた顧客には「20万円高い機械」に見えます。一方、洗い場にパートを一人増やすと年に132万円かかるとします(時給1,100円、一日5時間、年240日)。こちらを基準にした顧客には、毎年の費用を入れても「三年ほどで元が取れる買い物」に見えます(数字は説明のための仮定です)。
同じ価格が、基準によって、高くも安くも見えます。
3どの基準を当ててもらうか
基準は、名乗り方で変わります。「高性能の洗浄機です」と名乗れば、顧客は同業の洗浄機を基準にします。「人を探し続けるかわりに」と話を始めれば、人を雇う費用が基準になります。
基準は、販売パートナーの担当者の頭の中にもできます。「あのメーカーは、言えば引いてくれる」。一度そうなると、相談は毎回そこから始まります。大きく値引きした見積書は、「最初の価格は何だったのか」という疑いを呼ぶこともあります。
4値引きの前に、心配の中身を聞く
「値引きしないと、決まりませんよ」と言う営業の担当者に、「値引きはだめです」と返すだけでは、話はそこで止まります。聞き返したいのは、「顧客は、何が心配で価格を気にしているのか」です。
| 心配の中身 | 価格のかわりに応えられること |
|---|---|
| 導入で仕事が止まる日数 | 下見と、止めずに入れる段取り |
| 毎年いくらかかるか | 五年間の総額の表 |
| 故障したらどうなるか | 誰が最初に動くかを書いた紙。理由を書いた点検の相殺 |
| 支払いの時期 | 支払いを設置の翌月末に、など条件で |
値引きにつながるのは、「本体の価格そのもの」が心配の中身だったときだけです。
「高い」が、失敗への不安の言いかえになっていることもあります。変えたい気持ちはあるのに、うまくいかなかったときが怖くて、決めきれない。そのときに効くのは、値引きではなく、決めることの危険を小さくする手です。試しや、段階を分けた導入、故障したときに誰が動くかの約束。六つの問いでは「信頼」への答えです。
5「高い」を記録する
中身を知るには、記録が要ります。「高い」と言われた案件を、何と比べての言葉か、誰の言葉か(顧客本人か、販売パートナーの読みか)、そのあとどうなったか、で書いておきます。三件で足ります。
それでも、価値は分かっていても予算そのものが届かないことはあります。そのときに見直すのは、提供する範囲、入れる時期、支払いの分け方、あるいは相手にするセグメントそのものです。採算が合わないなら、その商談を見送るのも選択肢のうちです。
やりがちな間違い
A社の場合
架空の会社の例
A社の見積書には本体の価格しか載っておらず、止まった工場長は「やっぱり、ちょっと高いかな」と言いました。けれども、同じ人が「毎年いくらかかるのか、結局よく分からなかった」「社長に説明できなくて」とも言っていました。A社は価格を変えず、五年間の総額の表をつけた見積書をつくりました。同業の280万円と比べられていた300万円は、人を一人増やす五年分と比べられる額になりました。
ほかの業種なら
A社 業務用の洗浄機
| 当てられがちな基準 | 同業の洗浄機の本体価格 |
|---|---|
| 当ててほしい基準(例) | 人を一人増やす費用 |
| 「高い」の中身かもしれないもの | 毎年の費用、止まる日数 |
B社 建材
| 当てられがちな基準 | 従来の断熱材の材料費 |
|---|---|
| 当ててほしい基準(例) | 職人の手間と工期まで入れた費用 |
| 「高い」の中身かもしれないもの | 慣れない施工で工期が延びること |
C社 業務用のソフト
| 当てられがちな基準 | 他社のソフトの月額 |
|---|---|
| 当ててほしい基準(例) | 今の入力と確認にかかる人の時間 |
| 「高い」の中身かもしれないもの | 切りかえの作業、二年めからの利用料 |
D社 計測の機器
| 当てられがちな基準 | 同業の機器の本体価格 |
|---|---|
| 当ててほしい基準(例) | 手作業の測定にかかる人の時間 |
| 「高い」の中身かもしれないもの | 校正と保守の費用、手順書の書き直し |
A社のほかは、考えるための仮の例です。
選んだ業種は、ほかの記事でも最初に開きます(この端末の中だけに残します)。トップでも選べます。
理解を確かめる
問1顧客が「高い」と言いました。最初に聞き返すとよいのは、どれでしょうか。A いくらなら決めますか B 何と比べて、何が心配ですか答えを見る
B。基準と心配の中身が分かれば、価格以外で応えられることがあります。A から始めると、値引きの交渉になります。
問2「高性能の洗浄機です」と名乗ると、顧客の基準はどうなりやすいでしょうか。答えを見る
同業の洗浄機の価格が基準になります。比べる相手を、人を雇う費用や「いまのまま」にしたいなら、名乗り方から変えます。
やってみる
自分の会社の一件で
型07 総額の見積もり
型7「総額の見積もり」。「高い」と言われた案件を一つ選び、本体・毎年の費用・止まる日数・入れていないものを書き、比べる相手(人を増やす、いまのまま)と並べて、月に直します。あわせて、その「高い」が誰の言葉で、何と比べた言葉だったかを書き添えます。
- 総額(万円)
- 合計に入れていないもの(先に書く)
- 前提
- 聞かれそうなこと三つと答え
本では
本では 『選ばれる理由のつくり方』
この話が、人のあいだでどう進んだか。
第9章。第5章で聞いた工場長の言葉を、もう一度並べるところから始まります。
「やっぱり、ちょっと高いかなと思って」
本について →本の該当箇所:第9章 第1・2・4・7節