1本体の価格だけの見積書
見積書に本体の価格だけが載っていて、消耗品や点検の費用は口頭で「別途かかります」。よくある形です。
毎年の費用が見えないと、顧客は分からない部分を悪いほうに見積もります。「あとからいろいろ請求されるのではないか」。この不安が、払うもののほうに載ります。買うときの価格だけでなく、使い続ける費用、手放すときの費用まで含めた総額で考える見方は、法人の買い物では古くから使われてきました。
2五年間の総額を、比べる相手と並べる
業務用の洗浄機の例です(数字はすべて説明のための仮定)。
| 洗浄機を入れる | パートを一人増やす | |
|---|---|---|
| 初めにかかる費用 | 312万円(本体300万円+下見・設置・説明12万円) | 金額にしていない |
| 毎年かかる費用 | 24万円(消耗品18万円+点検6万円) | 132万円(時給1,100円×5時間×240日) |
| 五年間の合計 | 432万円 | 660万円 |
| 月に直すと | 約7.2万円 | 11万円 |
| 合計に入れていないもの | 電気と水道、修理、操作する人の時間、手放すときの処分 | 募集の費用、教える手間、日々の管理 |
比べる相手を決めると、見積書で何と並べて見せるかも決まります。
3前提を書き、動かして見せる
前提を一つ動かすと、差も動きます。パートに頼む時間が一日4時間で足りる工場なら、差は228万円から96万円に縮みます。
「人を増やさずに済む」の中身も分けておきます。実際に一人雇うはずだった工場なら、その費用が出ていかずに済みます。今いる人をほかの持ち場に回すだけなら、現金の支出は減りません。得られるのは、回した先で進む仕事です。人が採れない工場では、比べる相手は「採れないまま回す」ことになり、出ていくのは残業と、受けられない注文です。
4月に直す
月に直した行を足すのは、決める人の基準に合わせるためです。中小の会社の社長がふだん見ているのは、月の人件費と月の支払いです。分割やリースを使う会社では、月の支払いがそのまま基準になります。
5入れていないものを、先に書く
合計に入れていないものを先に書いておけば、「電気代は入っているのか」と聞かれても、言葉につまりません。 入れていないものを黙っておいた表は、差が大きく見えるぶん、最初の質問で信用を落とします。
この表を顧客の前で説明するのは、多くの場合、販売パートナーの担当者です。表をつくって終わりにせず、聞かれそうなことを三つ添えて渡します。約束(たとえば「製造を止めずに入れる」)は、条件を確かめた事実(下見の結果)と一緒に見積書の頭に書きます。条件が紙に残っていなければ、ただの売り文句に見えます。
6導入後の支え方を、並べて選べるようにする
価格には、「いくらにするか」のほかに「どう並べるか」もあります。
| 支え方 | 中身 | 顧客が払う年額(例) |
|---|---|---|
| 呼ばれたら行く | 困ったら電話 | 0〜数万円 |
| 点検 | 年に一度の点検 | 6万円 |
| 点検+定期の届け | 点検と、消耗品の定期の届け | 24万円 |
並べる前に、どの案にも、それを選んで得をする顧客の顔が浮かぶかを確かめます。浮かばない案は、あいだの案を選ばせるための飾りになっています。顧客は、あとで気づきます。
やりがちな間違い
A社の場合
架空の会社の例
A社の見積書の控え六十件のうち、毎年の費用が載っていたものは一件もありませんでした。マーケティング課長の早川さんは、総額の表をつけた見積書の見本を、代理店の担当者に預け、止まった一件の工場長に見せてもらいました。返ってきたのは、「これなら社長に出せる、と言っていました。電気代は、と聞かれましたが、表にあったので、その場で答えられました」。営業部長は、まずその代理店の案件から、見積書のひな形を変えることにしました。
ほかの業種なら
A社 業務用の洗浄機
| 初めにかかる費用 | 本体、設置、使い方の説明 |
|---|---|
| 毎年かかる費用 | 消耗品、点検 |
| 並べる相手 | パートを一人増やす、いまのまま |
| 入れていないもの(例) | 電気と水道、修理、処分 |
B社 建材
| 初めにかかる費用 | 材料、施工の説明の同行 |
|---|---|
| 毎年かかる費用 | (材料は都度)。追加の現場の説明 |
| 並べる相手 | 従来の断熱材と、職人の手間・工期 |
| 入れていないもの(例) | 足場や養生、現場ごとの差 |
C社 業務用のソフト
| 初めにかかる費用 | 初期の設定、データを移す作業 |
|---|---|
| 毎年かかる費用 | 利用料(二年め以降も) |
| 並べる相手 | 表計算とファックスでの入力・確認の時間 |
| 入れていないもの(例) | 社内で覚える時間、ほかのシステムとのつなぎこみ |
D社 計測の機器
| 初めにかかる費用 | 本体、据え付け、使い方の説明 |
|---|---|
| 毎年かかる費用 | 校正、保守 |
| 並べる相手 | 手作業の測定の時間 |
| 入れていないもの(例) | 検査の手順書の書き直し、置き場所 |
A社のほかは、考えるための仮の例です。
選んだ業種は、ほかの記事でも最初に開きます(この端末の中だけに残します)。トップでも選べます。
理解を確かめる
問1総額の表で、合計に入れていないものは、どこに書くとよいでしょうか。答えを見る
合計より先に、見えるところに。入れていないものを黙っていると、差が大きく見えるぶん、最初の質問で信用を落とします。
問2五年間の総額の表に「月に直すと」の行を足すのは、なぜでしょうか。答えを見る
決める人(中小の会社の社長など)がふだん見ている単位が、月の人件費や月の支払いだからです。
やってみる
自分の会社の一件で
型07 総額の見積もり
型7「総額の見積もり」。自社の商品で、本体、毎年の費用、止まる日数、入れていないもの、月に直した額を書き、比べる相手と並べます。販売パートナーの担当者が聞かれそうな質問を三つ、その答えと一緒に添えます。
- 総額(万円)
- 合計に入れていないもの(先に書く)
- 前提
- 聞かれそうなこと三つと答え
本では
本では 『選ばれる理由のつくり方』
この話が、人のあいだでどう進んだか。
第9章。総額の表を見た営業部長は、こう聞きました。
「これが、社長向けの一枚になるのか」
本について →本の該当箇所:第9章 第5・8節