1一つの買い物に、何人も関わる
会社どうしの取引では、一つの買い物に何人もの人が、それぞれの立場で関わります。法人の購買の研究では、こうした人たちの集まりを購買センターと呼んできました。その買い物のあいだだけ生まれる集まりで、そういう部署があるわけではありません。
| 関わり方 | 例(業務用の洗浄機の場合) | 気にしていること |
|---|---|---|
| 言い出す人 | 工場長 | 設置で何日止まるか |
| 使う人 | 洗い場のパートの人たち | 操作は覚えられるか。かえって手間が増えないか |
| 専門の立場から意見を言う人 | 品質管理の担当者(いる場合) | 衛生の基準を満たすか |
| 決める人 | 社長 | 今、投資すべきか。ほかに先にやることはないか |
| 手続きをする人 | 経理の担当者(いる場合) | 支払いの条件。毎年の費用 |
肩書きと役割は、必ずしも重なりません。 小さな会社では、社長が現場に出ていることも、工場長が実質的に決めていることもあります。一人が二つの役割を持つこともあります。この表は、肩書きではなく、「この一件で、誰が何をしたか」で書きます。空欄があってかまいません。
2決める人に届くのは、口で言える量だけ
カタログに大きく書いてある「洗う速さ」は、言い出す人には響きます。けれども、決める人が知りたいのは、速さよりも「今、買うべき理由」です。
しかも、決める人に話を持っていくのは、メーカーではなく言い出す人です。小さな会社では、それは会議ではなく、昼休みや帰りぎわの立ち話であることが多いものです。口で言える量しか、届きません。
カタログは、読む人のためにつくられています。決める人向けの材料は、読む人ではなく、渡す人のためにつくります。 たとえば、今のやり方で毎年かかっている費用と並べた一枚です。
決める人に渡る一枚は、言い出す人が気に入っている点(たとえば洗う速さ)ではなく、会社として共通の関心で書きます。今のやり方と並べた費用、止まる日数です。一人ひとりの関心に合わせすぎた材料は、社内で話が割れるもとになります。
3同じ買い物でも、人によって重さが違う
その買い物が、その人にとってどれくらい大ごとか(関与)は、人と立場と状況で変わります。工場長にとって洗浄機は大ごとで、時間をかけて調べ、慎重に比べます。社長にとっては今期に決めることの一つで、材料が足りなければ「今のままで十分」と決めてしまいます。
人は、いつも一番を探しているわけではありません。「これで十分」と思えたところで決めます(満足化)。決める人に効くのは、短くて、今のやり方と並べて読める材料です。
4顧客の会社の外にいる、もう一人
代理店を通じて売る会社では、表に入らない人がもう一人います。販売パートナーの担当者です。
どのメーカーの話を、どの会社の誰につなぐかは、その担当者が決めています。担当者が自社のことをよく知らなければ、話は言い出す人のところまで届きません。知っていても、売り慣れた他社の商品のほうが、あとで苦情を受ける心配が少なければ、そちらを持っていきます。担当者が勧める理由は、顧客が選ぶ理由とは別にあります。
やりがちな間違い
A社の場合
架空の会社の例
A社のマーケティング課長、早川さんが、止まった一件でこの表を埋めてみると、工場長の行に書けたのは、営業が聞かれた「設置で何日止まるか」だけでした。社長の行は空欄です。欄の横に、「野口さん(代理店の担当者)なら知っている」と書きました。代理店経由の案件では、この表を埋められるのは担当者だけ、ということがよくあります。
ほかの業種なら
A社 業務用の洗浄機
| 言い出す人 | 工場長 |
|---|---|
| 決める人 | 顧客の社長 |
| 会社の外の「決める人」 | 代理店の担当者 |
| 渡す人のための一枚(例) | 今のやり方の毎年の費用と並べた総額 |
B社 建材
| 言い出す人 | 現場監督 |
|---|---|
| 決める人 | 工務店の社長(施主の意向も効く) |
| 会社の外の「決める人」 | 建材の販売店の担当者 |
| 渡す人のための一枚(例) | 職人の手間と工期を、今の材料と並べた一枚 |
C社 業務用のソフト
| 言い出す人 | 受注係の責任者 |
|---|---|
| 決める人 | 社長、または費用を認める役員 |
| 会社の外の「決める人」 | 販売代理店、導入を請け負う会社 |
| 渡す人のための一枚(例) | 今の作業時間と並べた、月々の費用 |
D社 計測の機器
| 言い出す人 | 検査の担当者の責任者 |
|---|---|
| 決める人 | 工場長、設備の予算を持つ部長 |
| 会社の外の「決める人」 | 商社の担当者 |
| 渡す人のための一枚(例) | 校正と保守まで入れた、毎年の費用 |
A社のほかは、考えるための仮の例です。
選んだ業種は、ほかの記事でも最初に開きます(この端末の中だけに残します)。トップでも選べます。
理解を確かめる
問1「この表は、肩書きで書く」。正しいでしょうか。答えを見る
正しくありません。「この一件で、誰が何をしたか」で書きます。肩書きと役割は重ならないことがあり、一人が二つの役割を持つこともあります。
問2決める人向けの一枚をつくるとき、何を基準に考えるとよいでしょうか。答えを見る
それを渡す人(言い出す人)が、立ち話で口にできるか。読む人のためのカタログとは別に、渡す人のためにつくります。
やってみる
自分の会社の一件で
型02 止まった一件の書き出し
型2「止まった一件の書き出し」。止まった案件を一つ選び、上の五つの関わり方に、名前か役割を書きます。そのうえで、誰が、誰に、何を見せたのかを時間の順に書き出します。埋められない欄の横には、誰なら知っているかを書きます。
- 時間の順
- 関わった人(この一件で、誰が何をしたか)
- 比べていた相手
本では
本では 『選ばれる理由のつくり方』
この話が、人のあいだでどう進んだか。
第2章。決める人に届く道は二つありました。言い出す人に材料を持たせる道と、代理店の担当者に頼んで社長に会う道です。営業部長は後者を試し、「今はちょっと」と言われます。早川さんは、前者から始めます。社長向けの一枚が形になるのは第11章です。
本について →本の該当箇所:第2章 第3・4節