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壁 04 見えないテーマ:顧客を知るテーマ:相手を選ぶ読む時間 約7分更新 2026年10月5日

競合に「いまのまま」を数えるのは、なぜか

三行で言うと
  1. 顧客が比べているのは、同業だけではない。別の手段、自前でやる手、そして「いまのまま」。
  2. 「いまのまま」は、記録に残りにくい。名前も顔もなく、たいてい書く欄がないから。
  3. 「いまのまま」にも費用はかかっている。それを見えるようにし、切りかえの手間と不安を小さくする。

1比べられている相手は、四つある

比べられる相手例(業務用の洗浄機の場合)顧客が得るもの顧客が負担するもの
同業(競合)同業の洗浄機洗う時間が短くなる本体の費用、設置の手間、使いこなせるかの不安
別の手段(代替)洗浄の外注、使い捨ての資材作業そのものがなくなる毎月の費用、受け渡しの手間
自前人を増やす、シフトを組み直すすぐ始められる。融通がきく賃金、募集と教える手間、辞めてしまう不安
いまのまま手で洗い続ける変える手間がない。新しい出費がない今の人件費と残業代、現場の疲れ
比べられている相手は、同業だけではない (本の図2-4)PNGSVG

同じ商品でも、顧客がどの相手と比べているかで、伝えることが変わります。 同業が相手なら、機械どうしの違いが問われます。外注や増員が相手なら、「機械を入れる」というやり方そのものの価値が問われます。まだ機械にするかを決めていない相手に、同業との性能の差を語っても響きません。

2なぜ、「いまのまま」が選ばれるのか

二つに分けて考えます。

実際にかかる費用と手間。 切りかえには、導入で仕事が止まる日数、やり方を変える手間がかかります。見えにくいのは、言い出した人の立場です。変えてうまくいかなければ、その人の責任になります。いまのままで起きた不都合は、誰のせいにもなりにくい。こうした負担を見込んで慎重になるのは、筋の通った判断です。

気持ちの傾き。 選択肢の中に「今までどおり」があると、切りかえの費用がほとんどかからない場面でも、人はそれを選びやすくなります。現状維持バイアスと呼ばれ、実験でも実際の選択のデータでも確かめられています。今手にしているものを失う痛みは、新しく得られるもののうれしさより大きく感じられがちです。

今のやり方が選ばれているのは、気に入っているからとは限りません。変える理由が、まだないからです。

3「いまのまま」にも、二種類ある

  • 足りている。 今のやり方で回っていて、本当に急ぐ必要がない。課題がまだ切実でなく、追う相手ではない
  • 決められない。 変えたいのに、不安や材料の不足で決めきれない。見積書や導入の段取りの直しで動く相手

どちらなのかは、確かめるまで分かりません。

4「いまのまま」は、記録に残らない

営業の失注メモの理由の欄が、「価格」「他社」「時期尚早」の三択だったらどうでしょう。「人を増やした」「今のまま続けた」は、書く欄そのものがありません。

書く欄がないものは、記録に残らない (本の図4-1)PNGSVG

断る側にとって、「高い」は一番言いやすい理由です。様式に「いまのまま」の欄がなければ、書きようもありません。記録の欄を一つ足すだけで、数えられなかった相手が数えられるようになります。

5「いまのまま」に勝つには

  • 今のままでかかっている費用を、見えるようにする。 人の時間も残業の手当も、毎月出ていっている。新しい見積書のようには目に入らないだけ。比べるときは、同じ期間の、同じ範囲の費用を並べる
  • 切りかえの費用と手間を、実際に小さくする。 休業日の設置、慣れるまで今のやり方を残す
  • 失敗したときの不安を軽くする。 故障時に誰が動くか、やめられる形があるか

商品の良さを伝えるのは、変わりたい気持ちを強める手です。けれども、変わるのを止めているのは、切りかえの手間と、失敗したときの不安と、慣れたやり方のほうです。良さをいくら強く伝えても、そちらは小さくなりません。上の三つのうち、二つめと三つめは、止めているほうに効く手です。

やりがちな間違い

同業との性能くらべだけを用意する。相手が「いまのまま」なら、比べ方そのものがずれています。
「いまのまま」を、費用ゼロとして扱う。今のやり方にも、人の時間と手当がかかっています。
足りている会社まで追う。課題が切実でない会社は、段取りを整えても、費用を見せても動きません。追わない判断もあります。

A社の場合

架空の会社の例

A社のマーケティング課長、早川さんが失注メモを分け直すと、同業に負けたと分かる案件はわずかでした。一番多いのは、空欄と「価格」。どちらも「分からない」に入ります。「競合は同業の二社」という会議の前提は、記録では裏づけられていませんでした。早川さんは、営業部長に、理由の欄に「人を増やした」と「今のまま続けた」を足してもらうよう頼みました。

ほかの業種なら

A社 業務用の洗浄機

同業同業の洗浄機
別の手段・自前洗浄の外注、人を増やす
いまのまま手で洗い続ける
「いまのまま」の見えない費用洗い場の人の時間、残業の手当

B社 建材

同業同業の断熱パネル
別の手段・自前別の工法、現場で手間をかけて施工する
いまのまま使い慣れた、従来の断熱材
「いまのまま」の見えない費用職人の手間、工期の長さ

C社 業務用のソフト

同業同業の受発注のソフト
別の手段・自前今の業務システムに機能を足す、人を増やす
いまのまま表計算とファックス
「いまのまま」の見えない費用入力と確認の時間、転記の誤りの手直し

D社 計測の機器

同業同業の計測機器
別の手段・自前検査の外注、人を増やす
いまのまま手作業の測定
「いまのまま」の見えない費用測定にかかる人の時間、記録の手書き

A社のほかは、考えるための仮の例です。
選んだ業種は、ほかの記事でも最初に開きます(この端末の中だけに残します)。トップでも選べます。

理解を確かめる

問1失注の記録に「他社」が少なく、「価格」と空欄が多い。ここから何が言えるでしょうか。答えを見る

負けた相手が分からない案件が多い、ということです。「価格」は断る側が一番言いやすい理由で、空欄の中には「いまのまま」が混ざっているかもしれません。記録の欄を足し、止まった案件を確かめにいきます。

問2「いまのまま」を選ぶ会社のうち、追うとよいのはどちらでしょうか。答えを見る

変えたいのに、不安や材料の不足で決めきれない会社。見積書や導入の段取りの直しで動く可能性があります。今のやり方で足りている会社は、追わない判断もあります。

やってみる

自分の会社の一件で

型02 止まった一件の書き出し

型2「止まった一件の書き出し」。止まった案件を一つ選び、顧客が何と比べていたかを、同業・別の手段・自前・いまのまま、の四つに分けて書きます。分からないものは「?」のまま。そのうえで、次の半年ぶんだけでも、失注の記録に「いまのまま」の欄を足せないか、営業に相談します。

  • 時間の順
  • 関わった人(この一件で、誰が何をしたか)
  • 比べていた相手
この型で整理する →A社の記入例を見る登録は要りません。入力した内容は、送信しません。

本では

本では 『選ばれる理由のつくり方』

この話が、人のあいだでどう進んだか。

第2章・第4章。失注メモに欄を足してほしいと頼んだとき、営業部長はこう答えました。

「欄を足すのは構わんぞ。ただ、聞けるかどうかは別だ」

本について →

本の該当箇所:第2章 第5節、第4章 第3・4節

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