1なぜ、「価格」で片づいてしまうのか
見積もりのあとで返事が途絶えると、社内の記録には、短い理由が一つだけ残ります。「価格」と残ることも、めずらしくありません。
相手がそう言ったから、とは限りません。記録の様式に、それしか書く欄がないことがあります。
- 工場長が言ったのは、六つ。
- 記録の三択を通るのは、一つだけ。A社の失注メモの理由は「価格・他社・時期尚早」の三択。収まるのは「ちょっと高いかな」だけで、あとの五つには書く欄がない
- 紙の上では、「価格」になる
- 会議に届くのは、「価格で負け」。値下げの検討に、まっすぐ進むところ。代理店を通じた案件では、あいだにもう一段入り、さらに短くなる
- 分けて書けば、六つとも届く。「毎年いくらかかるのか」「社長に説明できなくて」は、値下げとは別の手を指している
人を通るたびに短くなり、様式を通るときに、別のものになる。返事が来ない一件を調べるときは、まずこの仕組みを疑います。
2考えられることを、一つに決めないで並べる
返事が来ない理由を、六つの問いに当てると、次の四つが浮かびます。
| 問い | 考えられること |
|---|---|
| 対価(見合うのか) | 見積書にあるのは本体の価格だけで、毎年かかる費用や、導入で仕事が止まる日数が見えていない。総額が読めない |
| 信頼(信じてよいか) | 故障したとき、誰が最初に動くのかが、はっきりしていない |
| 関係(自分の話か) | 決める人に、判断の材料が届いていない。窓口の担当者は、社内で説明できずにいる |
| 比べる相手 | 負けた相手は同業ではなく、「いまのまま」かもしれない |
どれが当たっているかは、この時点では分かりません。分からないと書いておくのが、ここでの正しい状態です。
3最初に確かめる三つ
- 手元の記録を読み直す。 自分の半日。誰にも頼まずにできます。出した見積書の控えに、何が載っていて、何が載っていなかったか。
- 止まった一件を、時間の順に書き出す。 営業か、代理店の担当者と一緒に。いつ、誰が、何を見せて、相手が何と言ったか。
- 決める人に、誰が、何を見せたのかを聞く。 見せたものの中に、その人が知りたいことの答えがあったか。
相手に聞けるなら、これからの意向(「どうなれば買いますか」)ではなく、これまでの行動(「見積もりのあと、社内でどなたに、何を見せましたか」)を聞きます。
やりがちな間違い
A社の場合
架空の会社の例
A社が控えを見直すと、出していた見積書には、本体の価格だけが載っていました。工場長が気にしていたのは、本体の高さというより、毎年の費用と止まる日数が読めないこと、そして、社長に説明する材料がないことのようでした。一社の話なので、まだ仮説です。A社が次にやったのは、値下げではありません。毎年の費用まで入れた見積書をつくり、ほかの止まった会社にも見せて、反応を聞くことでした。
ほかの業種なら
A社 業務用の洗浄機
| 売るもの/顧客 | 業務用の洗浄機/惣菜・食品の工場 |
|---|---|
| 間に入る人 | 厨房の機器を扱う代理店の担当者 |
| 見積もりに載っていない(かもしれない)もの | 洗剤と点検の、毎年の費用。設置で洗い場が止まる日数 |
| 材料が届いていない(かもしれない)人 | 工場長の先の、社長 |
| 負けた相手 | 同業ではなく、「手で洗い続ける」だったかもしれない |
B社 建材
| 売るもの/顧客 | 外壁の断熱パネル/地域の工務店 |
|---|---|
| 間に入る人 | 建材の販売店の担当者 |
| 見積もりに載っていない(かもしれない)もの | 職人が慣れるまでの手間と、工期への影響 |
| 材料が届いていない(かもしれない)人 | 工務店の社長。その先の施主 |
| 負けた相手 | 使い慣れた、従来の断熱材かもしれない |
C社 業務用のソフト
| 売るもの/顧客 | 受発注を管理するクラウドのソフト/中小の卸売の会社 |
|---|---|
| 間に入る人 | 地域の IT の販売代理店、導入を請け負う会社 |
| 見積もりに載っていない(かもしれない)もの | データを移す作業。二つの仕組みを並べて動かす期間。二年めからの利用料 |
| 材料が届いていない(かもしれない)人 | 費用を認める役員 |
| 負けた相手 | 表計算とファックスかもしれない |
D社 計測の機器
| 売るもの/顧客 | 検査用の計測機器/中堅の部品メーカーの品質保証の部署 |
|---|---|
| 間に入る人 | 機器を扱う商社の担当者 |
| 見積もりに載っていない(かもしれない)もの | 校正と保守の、毎年の費用。検査の手順書を書き直す手間 |
| 材料が届いていない(かもしれない)人 | 設備の予算を持つ部長 |
| 負けた相手 | 手作業の測定かもしれない |
A社のほかは、考えるための仮の例です。
選んだ業種は、ほかの記事でも最初に開きます(この端末の中だけに残します)。トップでも選べます。
理解を確かめる
問1営業の報告に「顧客は価格に不満を持っていました」とあります。これは、聞いたことでしょうか。考えたことでしょうか。答えを見る
この文だけでは、分かりません。相手が言ったのが「やっぱり、ちょっと高いかな」なら、そのまま「本人の言葉」の欄に書きます。「不満を持っていた」は、報告した人の読みなので、「間に入った人から聞いたこと」の欄です。
問2見積もりのあと返事が来ない案件が、三件続きました。先にやるのは、どれでしょうか。A 広告を増やす B 値引きの枠をつくる C 止まった一件を、時間の順に書き出す答えを見る
C。A と B は、止まった場所が分かってから。場所が見積もりの中身にあるなら、広告を増やすほど、同じ場所で止まる人が増えます。
やってみる
自分の会社の一件で
型03 誰の言葉かを分けて書く記録
型3「誰の言葉かを分けて書く記録」。止まった一件を、六つの欄(記録で確かめたこと/顧客本人から聞いた言葉/間に入った人から聞いたこと/こちらが考えたこと(AI の答えも、ここに)/聞けていないこと/次に確かめること)に分けて書きます。書けない欄は、空けたままに。そこが、次に確かめにいく先です。
- 1 記録で確かめたこと
- 2 顧客本人から聞いた言葉
- 3 間に入った人から聞いたこと
- 4 こちらが考えたこと
- 5 聞けていないこと
- 6 次に確かめること
本では
本では 『選ばれる理由のつくり方』
この話が、人のあいだでどう進んだか。
第2章・第5章・第9章。代理店の野口さんは、なぜ同行を引き受けたのか。工場長の言葉を営業会議で読み上げたとき、営業の黒田さんは何と言ったか。
「別途と口で言ったのは、俺だ」
本について →本の該当箇所:第2章 第1節、第5章 第8節、付録1