1社内の文は、そのままでは運べない
「下見で条件を確かめた工場には、製造を止めずに入れる」。社内で決めた約束の文です。このままでは、販売パートナーの担当者は顧客に言えません。
代理店を通じて売る会社の約束は、人の口を何回か通ります。紙に書いた文章は、口では運べません。運ばれるのは、一息で言える短い言葉だけです。
2約束の三つの形
| 形 | 言葉(例) | 使う人 | 置き場所 |
|---|---|---|---|
| 約束の文 | 下見で条件を確かめた工場には、製造を止めずに入れる。次の朝は、技術者が始業に立ち会う | 社内 | 約束の一枚 |
| 口で言う形 | 下見で確かめてから、休みの日に入れます。次の朝は、技術者が始業に立ち会います | 販売パートナー、営業 | 資料の表側、販売パートナーに渡す紙 |
| 資料の見出し | (相手の困りごとから始める一行) | 顧客が社内で見せる | 表紙、Webの最初の画面、展示会 |
(業務用の洗浄機の例)
3口で言う形は、聞かれる質問から逆にたどる
口で言う形は、顧客から実際に聞かれる質問から逆にたどってつくります。技術者が「たいてい聞かれるのは、何日止まるかですよ」と言うなら、その答えになる形にします。
初めの一言(条件)は省きません。 「下見で確かめてから」が落ちると、「製造は止めません」だけが残り、約束が水増しになります。
できたら、担当者に声に出して言ってもらいます。 「これなら、言えます」と返ってきたら、その形が担当者全員に渡る形です。
4相手ごとに、入口と渡すものが変わる
| 相手 | 一番上に置く一行(例) | 渡すもの | 誰の手から |
|---|---|---|---|
| 言い出す人(現場の責任者) | 人が辞めるたびに、現場が回らなくなっていませんか | 一枚の資料 | 販売パートナーの担当者 |
| 使う人 | 毎日の操作は三つです | 壁に貼る手順の見本 | 言い出す人 |
| 決める人 | この一年、求人を何度出しましたか | 決める人向けの一枚 | 言い出す人(メーカーではない) |
| 販売パートナーの担当者(運ぶ人) | 勧めたあとで、困らないために | 手元の小さな紙(聞かれそうなこと三つと回し先) | 営業 |
最後の行だけ、紙が違います。担当者が勧める理由(手数料、勧めても困らないこと)は、顧客向けの資料には混ぜません。 混ぜると、顧客に関係のない行が入ります。
5誰が、どの場面で、何と言って出すか
資料は、つくった枚数では働きません。かばんから出た回数で働きます。 決めておくのは、何部渡すかではなく、次のことです。
- きっかけの一言:担当者がかばんから資料を出す前の一言。「最近、現場の人は足りていますか」
- 渡す順:言い出す人に一枚 → 決める人向けの一枚を「社長にお見せになるときに」と添えて
- 聞かれそうなこと三つ:何日かかるのか、毎年いくらかかるのか、故障したら誰に電話するのか。名刺ほどの紙に、そのまま口にできる長さで
- 答えられない質問の回し先:その場でつくらず、担当の営業へ。回す先が紙に書いてあれば、担当者は「確認します」と言える
担当者が「その一言は、私からは聞きにくい」と言うこともあります。そのときは、言う人を変えます。たとえば、決める人向けの一枚の一行めを、言い出す人が自分で数字を書きこむ欄にする。読み手と運び手を分けて書くと、こういうことが見えてきます。
やりがちな間違い
A社の場合
架空の会社の例
A社のマーケティング課長、早川さんは、口で言う形を代理店の担当者に読んでもらいました。返ってきたのは「これなら、言えます」。一方、決める人向けの一枚の一行め「この一年、洗い場の求人を何度出しましたか」には、「私からは聞きにくいですね。工場長が社長に言う紙なら、いいですが」と言われ、早川さんは一行めを工場長が自分で書きこむ欄に変えました。「工場長が書くなら、言えます」。
ほかの業種なら
A社 業務用の洗浄機
| 口で言う形(例) | 下見で確かめてから、休みの日に入れます |
|---|---|
| 省かない条件 | 下見で確かめてから |
| 聞かれそうなこと三つ(例) | 何日/毎年いくら/故障したら |
B社 建材
| 口で言う形(例) | 現場を見てから、職人さん一人で留められるかお答えします |
|---|---|
| 省かない条件 | 現場を見てから |
| 聞かれそうなこと三つ(例) | 工期は/職人の手間は/不具合のときは |
C社 業務用のソフト
| 口で言う形(例) | 今の受注の流れを伺ってから、切りかえの日数をお答えします |
|---|---|
| 省かない条件 | 流れを伺ってから |
| 聞かれそうなこと三つ(例) | 切りかえの日数/二年めの料金/問い合わせ先 |
D社 計測の機器
| 口で言う形(例) | 部品を測ってから、今の検査時間がどれだけ縮むかお答えします |
|---|---|
| 省かない条件 | 部品を測ってから |
| 聞かれそうなこと三つ(例) | 校正の費用/手順書は/故障したら |
A社のほかは、考えるための仮の例です。
選んだ業種は、ほかの記事でも最初に開きます(この端末の中だけに残します)。トップでも選べます。
理解を確かめる
問1約束の文を短くして、口で言う形にするとき、省いてはいけないのは何でしょうか。答えを見る
条件の一言(「下見で確かめてから」など)。落ちると約束が水増しになります。
問2販売パートナーの担当者が勧める理由(手数料など)は、どこに書きますか。答えを見る
顧客向けの資料とは別の紙に。混ぜると、顧客向けの紙に顧客に関係のない行が入ります。
やってみる
自分の会社の一件で
型06 約束を書く
型6「約束を書く」。約束の文を一つ選び、口で言う形(一息で言える長さ、条件の一言つき)に書き直します。販売パートナーの担当者に声に出して言ってもらい、言いにくいところに印をつけます。聞かれそうなこと三つと、答えられない質問の回し先も書きます。
- 誰に
- どんな場面で
- 何と比べて
- 約束すること(条件つきで)
- 裏づけ
- 口で言う形
- 約束しないこと
本では
本では 『選ばれる理由のつくり方』
この話が、人のあいだでどう進んだか。
第7章・第11章。口で言う形を読んだ代理店の担当者は、こう言いました。
「これなら、言えます」
本について →本の該当箇所:第7章 第7節、第11章 第4・5節