1勧める・売る・支える、で分担を一枚に
契約を結んだだけでは、販売パートナーは動きません。動いてもらうには、何を頼み、相手に何が残るのかを、一つずつ書いて合わせます。
頼みごとは、場面ごとに分けて書きます。そして、相手の負担と見返りの列を置きます。負担が増えるなら、相手に何が残るのかを、同じ行に書きます。
| 場面 | メーカーが受け持つこと | 販売パートナーが受け持つこと | 渡すもの | 相手の負担と見返り |
|---|---|---|---|---|
| 勧める | 話す得意先の見分け方を一緒につくる。口で言う形と、聞かれそうな三つの答えを渡す | 当てはまる得意先で、話を出す | 一枚の資料。見分け方の覚え | 負担:話を出す手間。見返り:説明が短く済む |
| 売る | 技術者の下見の同行。総額の表つきの見積書 | 下見の日取りをつけ、立ち会う | 下見の記録、見積書、段取りの書面 | 負担:段取りと半日。見返り:手数料。答えに困らない |
| 支える | 導入、使い方の説明、点検、修理 | 様子を見る。故障の最初の電話をつなぐ | 故障の連絡先の紙 | 負担:訪問と電話。見返り:勧めても、あとで困らない |
(業務用の洗浄機の例)
「見分け方」は、社内の言葉(「毎日出荷のある中小工場で、人手が足りない」)を、担当者が出入り先で気づける兆しに訳したものです。募集をずっと出している、パートが辞めた話が出た。兆しの中身は、メーカーが決めて渡すのではなく、担当者に聞いて一緒につくります。
「渡すもの」の列は、紙です。 会社と会社のあいだでは、話がこぼれやすくなります。一人の担当者と決めたことは、その人が替わると消えます。紙は、代理店の社長にも渡します。
そして、この表は案です。相手にも人手や得意不得意があります。持っていって、一緒に直します。
2断られたら、「一番難しいのは、どれですか」
三つの頼みごとを持っていって、首を横に振られたとします。「正直、そこまでは回れません」。
押せば、形だけの報告が返ってきます。引き下がれば、分かるのは「断られた」ことだけです。聞くのは、「三つのうち、一番難しいのは、どれですか」です。
答えが「報告です。回るだけならついでに寄れます。書くほうが困る。うちの名前で『問題なし』と書いて、あとで何かあったら、うちに来るでしょう」だったなら、止まっていたのは意欲ではなく、売ったあとに責任を負わされる不安(六つの問いの「信頼」)です。
3量を小さくし、分担を変える
答えを受けて、頼みごとを書き直します。
- 量を小さく:全社に頼むつもりだったものを、一人から。三つの仕事を、三つの質問に。期間は「次の一件だけ」
- 分担を変える:書くこと、判断すること、責任を負うことは、メーカーに戻す。相手に残すのは、見ること、聞くこと、つなぐこと。毎月その得意先に顔を出しているのは相手で、それはメーカーにはできない
たとえば、「ひと月後は、いつもの訪問のついでに三つだけ聞いてきてください。使っているか。誰が使っているか。消耗品は足りているか。書くのは、こちらでやります。担当の営業から電話で聞かせてください」。
4手数料の内か、外か
頼みごとが手数料の内なのか外なのかを、分担の表と並べて確かめます。営業は「手数料を払っているのに」と思い、代理店は「年に数台の商売で、そこまでは」と思っています。外の仕事を頼むなら、相手に何が残るのかを一緒に考えます。条件を変えるのは決裁の話で、取り決めの文面は専門家に確かめます。
5返す
頼むだけでは、続きません。聞いてもらった三つで、何を直したのかを、次に会うときに返します。声を戻しても何も起きなければ、次は戻ってきません(「代理店から、顧客の声を戻してもらうには」)。
やりがちな間違い
A社の場合
架空の会社の例
A社のマーケティング課長、早川さんが分担の表を代理店に持っていったとき、口火を切ったのは営業部長でした。前の日には、代理店の社長に電話を入れてあります。断られたあと、早川さんは表の「支える」の行に線を引き、次の朝は自社の技術者が立ち会う、ひと月後は三つだけ聞いてもらう、書くのは自社、故障はこの番号へ、と書き直しました。返ってきたのは、「それなら、次の一件でやってみます」でした。
ほかの業種なら
A社 業務用の洗浄機
| 相手に頼むこと(見る・聞く・つなぐ) | ひと月後に三つ聞いてくる |
|---|---|
| こちらに戻すこと(書く・判断する・責任) | 報告を書く、故障の窓口 |
| 相手の見返り | 勧めても、あとで困らない |
B社 建材
| 相手に頼むこと(見る・聞く・つなぐ) | 施工後の現場で、困りごとを一つ聞いてくる |
|---|---|
| こちらに戻すこと(書く・判断する・責任) | 施工の不具合の判断と対応 |
| 相手の見返り | 施工の不安が減り、次も採用されやすい |
C社 業務用のソフト
| 相手に頼むこと(見る・聞く・つなぐ) | 導入先の使い始めの様子を聞いてくる |
|---|---|
| こちらに戻すこと(書く・判断する・責任) | 問い合わせの一次対応、設定の直し |
| 相手の見返り | 導入後の手間が減る |
D社 計測の機器
| 相手に頼むこと(見る・聞く・つなぐ) | 据え付け後の測定の様子を聞いてくる |
|---|---|
| こちらに戻すこと(書く・判断する・責任) | 校正と不具合の判断 |
| 相手の見返り | 得意先での信用が保てる |
A社のほかは、考えるための仮の例です。
選んだ業種は、ほかの記事でも最初に開きます(この端末の中だけに残します)。トップでも選べます。
理解を確かめる
問1頼みごとを断られました。押さずに、何を聞きますか。答えを見る
「一番難しいのは、どれですか」。答えが、止まっている理由(多くは信頼や手間)を教えてくれます。
問2分担を変えるとき、相手に残すのは何で、こちらに戻すのは何でしょうか。答えを見る
相手に残すのは、見ること、聞くこと、つなぐこと。こちらに戻すのは、書くこと、判断すること、責任を負うこと。
やってみる
自分の会社の一件で
型08 代理店への頼みごと
型8「代理店への頼みごと」。頼みたいことを三つまで書き、それぞれに、相手の負担・見返り・断られたときの小さくした案を、同じ行に書きます。最後に、「次の一件」の名前と期日を書きます。
- 相手
- 目的
- 頼みごと(三つまで)
- こちらが受け持つこと
- 返すもの
- 次の一件(名前と期日)
- 手数料の内か、外か
本では
本では 『選ばれる理由のつくり方』
この話が、人のあいだでどう進んだか。
第10章。分担の表を見て首を振った代理店の担当者に、営業部長は押さずに聞きました。
「ですよね。三つのうち、一番難しいのは、どれですか」
本について →本の該当箇所:第10章 第8・9節