1「顧客のために」は、反対しにくい
「入れたあと誰も見にいかないから、使われなくなる。導入のあと三か月、月に一度、技術者が無料で様子を見にいこう」。もっともな案です。顧客に喜ばれることも、間違いないでしょう。
けれども、続けられなければ、会社が先に息切れします。「顧客のために」は、社内で反対しにくい言葉です。反対が出ないぶん、会社の側の確かめが抜けやすくなります。
2利益の表に出てこない上限:人の日数
技術者の給料は、売れても売れなくてもかかる固定費です。だから、訪問を増やしても、採算の表の数字はほとんど動きません。動くのは、日数です。
業務用の洗浄機の例で数えます(数字は仮定)。技術者二人が、設置・点検・修理のほかに新しいことに使えるのは、年に40日ほど。無料の訪問を一台三回・一回半日、年20台の全部につけると、30日。40日の四分の三が埋まります。
残り10日では、下見の同行のような別の大事な仕事が入りません。足りない分は、残業か休日か、設置の準備を削ることで埋め合わされます。準備が手薄になれば設置の質が落ち、顧客に喜ばれるために始めたことが、めぐりめぐって顧客の価値を損ないます。
3販売パートナーにも、採算と手間がある
見落としやすい相手が、もう一つあります。販売パートナーです。導入後の様子見、故障の最初の電話、下見への同行。手数料が同じなら、担当者には手間だけが増えます。 手間だけ増える仕事は、かばんの底に沈みます。
何かを足す案には、「販売パートナーの仕事は増えるか。増えるなら、相手に何が残るか」の欄を置きます。そして、販売パートナーにとっての得を、顧客への価値の説明に混ぜないことです。別の列に書きます。
4足す前に、三者で比べる
| 案 | 顧客が受け取るもの(効く問い) | 一台の利益 | 人の日数 | 販売パートナーの負担 | 選ぶ前に知ること |
|---|---|---|---|---|---|
| 全件に無料の訪問 | 不安が軽くなる(信頼・継続) | 減る | 枠の四分の三 | 予定の調整 | 決める人が不安で止まっているのか |
| 訪問を有料の追加に | 申し込んだ相手には大きい(継続) | 戻る、増える | 申し込み次第 | 説明が増える | 何社が申し込むか |
| 相手を絞って訪問 | 不安の大きい相手には大きい(信頼) | 一部減る | 収まりやすい | 予定の調整 | 不安の大きい相手はどこか |
| 手順の一枚を現場に貼る | 覚えやすくなる(信頼) | 変わらない | 変わらない | なし | 現場の人が何でつまずくか |
| 故障の連絡先を一枚で渡す | 困ったときの行き先が分かる(信頼) | 変わらない | 変わらない | 最初の電話が来るなら増える | 故障の電話が今どこに行っているか |
| 一割引く | お金だけ軽くなる(対価) | 大きく減る | 変わらない | なし | 決める人がお金で止まっているのか |
(業務用の洗浄機の例。評価は説明のための仮のもの)
三者を同じ表に並べると、価値をなるべく残しながら、会社と販売パートナーの負担を軽くする手を探せます。 全員に同じものを足すのをやめて、価値を感じる相手に絞るだけで、三者とも無理のない形になることもあります。
右端の「選ぶ前に知ること」の列が、一番大事です。相手の困りごとに効く理由を説明できない項目は、提案を豪華に見せても、顧客の費用と判断の負担を増やすだけです。
5始める前に、やめ方を決める
足す前に、四つを確かめます。
- 誰の、何が、どれくらい軽くなるのか。その人が本当にそこで止まっていると、確かめたか
- 一台あたりの利益は、どう変わるのか
- 人や設備の枠に収まるのか。販売パートナーの仕事は増えるか
- やめたくなったとき、やめられるのか
四つめは、見落とされがちです。無料で始めたことを途中でやめると、顧客は「サービスが悪くなった」と感じます。一番かんたんなやめ方は、期限を先に切ることです。「導入後三か月まで」「今期に契約した相手まで」と最初に書いておけば、終わるときに取り上げた形になりません。
やりがちな間違い
A社の場合
架空の会社の例
A社では、営業部長が「導入のあと三か月、月に一度、無料で見にいこう」と提案しました。技術者の大西さんは、壁の予定表から目を離さずに言いました。「年二十台で、三回ずつなら、六十回です。設置と重なる月は、回れません」。マーケティング課長の早川さんが三者で比べる一枚を出すと、社長は「全部につけたら、大西が回らん。それに、無料で三回行ったら、有料の点検が売れなくなるぞ」。案は消えたのではなく、どの相手につけるかが決まるまで、預かりになりました。
ほかの業種なら
A社 業務用の洗浄機
| 「無料で」の案の例 | 導入後三か月の無料訪問 |
|---|---|
| 先に尽きそうな人の時間 | 技術者の日数 |
| 期限の切り方(例) | 導入後三か月まで |
B社 建材
| 「無料で」の案の例 | 全現場への無料の施工指導 |
|---|---|
| 先に尽きそうな人の時間 | 施工の説明に回る技術営業の時間 |
| 期限の切り方(例) | 最初の一現場まで |
C社 業務用のソフト
| 「無料で」の案の例 | 導入後の無料の個別サポート |
|---|---|
| 先に尽きそうな人の時間 | 導入を支える担当者の時間 |
| 期限の切り方(例) | 最初の一か月まで |
D社 計測の機器
| 「無料で」の案の例 | 初年度の無料の校正 |
|---|---|
| 先に尽きそうな人の時間 | 校正の技術者の日数 |
| 期限の切り方(例) | 今期に契約した相手まで |
A社のほかは、考えるための仮の例です。
選んだ業種は、ほかの記事でも最初に開きます(この端末の中だけに残します)。トップでも選べます。
理解を確かめる
問1無料の訪問を足しても、採算の表の数字があまり動かないのはなぜでしょうか。そのかわりに何が動くでしょうか。答えを見る
技術者の給料は固定費だからです。かわりに、技術者の日数が動き、先に尽きます。
問2無料のサービスを始める前に決めておくとよい「やめ方」の、一番かんたんな形は何でしょうか。答えを見る
期限を先に切ること。「導入後三か月まで」などと最初に書いておきます。
やってみる
自分の会社の一件で
型04 三者で比べる
型4「三者で比べる」。足したい案を一つと、別の案を二つ以上(相手を絞る、有料にする、紙一枚で済ませる、など)並べ、顧客・自社・販売パートナーの欄と、右端に「選ぶ前に知ること」を書きます。空欄のまま選ばれそうな案に、印をつけます。
- 何を決めたいか
- 案ごとに比べる
- やめ方
本では
本では 『選ばれる理由のつくり方』
この話が、人のあいだでどう進んだか。
第3章。無料の訪問の案を聞いた技術者の大西さんは、壁の予定表を見たまま答えました。
「年二十台で、三回ずつなら、六十回です。設置と重なる月は、回れません」
本について →本の該当箇所:第3章 第1・5・6・7節