1「何と比べて?」
カタログの表紙に、一番大きな字で「高性能・高速洗浄」。この言葉にも役目はあります。速さを重く見る相手には、今も響きます。
けれども、先に相手にすると決めた顧客の目で読むと、「高性能」と言われても、何と比べて高いのかが分かりません。自分の現場の何をよくしてくれるのかも書いてありません。どの会社のカタログにも似た言葉があるので、判断の材料になりません。
2ポジショニングは「何と比べて」で決まる
ポジショニングは、「顧客の頭の中で、何の隣に置かれるかを決めること」です。最後に決めるのは顧客で、会社にできるのは、こう並べてもらいたいという狙いを定め、商品と届け方と伝え方をそろえていくことです。
考える出発点は、「この商品がなかったら、顧客は代わりに何をするか」です。答えには、人を雇う、表計算で間に合わせる、何もしない、も入ります。
業務用の洗浄機で考えます。
- 同業の洗浄機と比べれば、「小ぶりで、設置の短い機械」
- 人を増やすことと比べれば、「辞めない働き手」
- 「いまのまま」と比べれば、「人手の不安を減らす備え」
同じ一台が、隣に並ぶものによって、三つの違う顔を見せます。 相手が人を探し続けることと比べているなら、表紙で答えたいのは、同業との性能の差より「人を探し続けるのと、どちらが楽か」のほうです。
ただし、分類は保ち、比べる相手だけを変えます。 「洗浄機」という分類まで変えると、販売パートナーは紹介しにくく、探している人にも見つかりません。「業務用の洗浄機です」と名乗りながら、話を「人を探し続けるかわりに」から始めます。
3あちこちで、同じことを言っているか
| 接点 | 言っていること | 何と比べているか |
|---|---|---|
| カタログの表紙 | 高性能・高速洗浄 | 同業 |
| Webの最初の画面 | 省スペース設計 | 同業 |
| Webの広告 | 手洗いより、ずっと短い時間で | 手洗い |
| 営業の最初の一言 | うちは速いですよ | 同業 |
| 販売パートナーの一言 | 設置は二、三日かかると思いますが | (答えになっていない) |
それぞれが別のことを言っていたら、顧客の頭の中で、置き場所は定まりません。この表を書くのは、担当者が今週できる作業です。
4配置図の軸は、顧客の言葉から選ぶ
縦と横に軸をとって自社と競合を並べる図は便利ですが、軸を描く人が自由に選べます。自分たちが磨いてきたものを軸に選べば、どんな商品でも、右上に一人で立つ図になります。 そういう図が描けたら、出来ばえを喜ぶ前に、軸のほうを疑います。
軸は、聞き取りの言葉から選びます。顧客が気にしていたのが「何日止まるのか」「毎年いくらかかるのか」なら、それを軸にし、並べる相手に「人を増やす」と「いまのまま」も入れます。自分たちが劣って見える軸で描くと、先に手を入れるべき穴が見つかります。
5候補に残る条件と、選ばれる決め手
「違い」に目が行きがちですが、相手と「同じでなければならない点」もあります。衛生の基準、安全、故障したときに誰かが来てくれること。同じように満たしている会社どうしでは目立ちませんが、一つでも欠けると、違いを見てもらう前に候補から外されます。候補に残るための基本要件と、選ばれる決め手とでは、役目が違います。 穴があるなら、そちらをふさぐのが先です。
やりがちな間違い
A社の場合
架空の会社の例
A社のマーケティング課長、早川さんは、表紙から「高性能・高速洗浄」を外す案を持っていきました。開発の担当者は「速さを外すのか」と言いました。早川さんは「外しません。置き場所を変えます。仕様表には残します。同業と比べられたときには、今も答えになります」と答えました。全員が納得したわけではありませんが、最初の数社の記録で見直す、と決めて会議は終わりました。
ほかの業種なら
A社 業務用の洗浄機
| 「高性能」型の言葉(例) | 高性能・高速洗浄 |
|---|---|
| 顧客が比べている相手(例) | 人を増やす、いまのまま |
| 顧客の言葉から選ぶ軸(例) | 止まる日数、毎年の費用の見通し |
B社 建材
| 「高性能」型の言葉(例) | 高断熱・高性能パネル |
|---|---|
| 顧客が比べている相手(例) | 従来の断熱材、職人の手間 |
| 顧客の言葉から選ぶ軸(例) | 施工の手間、工期 |
C社 業務用のソフト
| 「高性能」型の言葉(例) | 多機能・高機能 |
|---|---|
| 顧客が比べている相手(例) | 表計算とファックス |
| 顧客の言葉から選ぶ軸(例) | 切りかえの手間、月々の費用 |
D社 計測の機器
| 「高性能」型の言葉(例) | 高精度・高速測定 |
|---|---|
| 顧客が比べている相手(例) | 手作業の測定 |
| 顧客の言葉から選ぶ軸(例) | 測定にかかる時間、校正の費用 |
A社のほかは、考えるための仮の例です。
選んだ業種は、ほかの記事でも最初に開きます(この端末の中だけに残します)。トップでも選べます。
理解を確かめる
問1配置図で、自社だけが右上に一人で立つ図が描けました。まず何を疑いますか。答えを見る
軸です。自分たちが磨いてきたものを軸に選ぶと、どんな商品でもそうなります。軸は、顧客の聞き取りの言葉から選び直します。
問2比べる相手を変えるとき、分類(「洗浄機」など)も変えたほうがよいでしょうか。答えを見る
変えません。分類を変えると、紹介する人も探す人も迷います。分類は保ち、比べる相手だけを変えます。
やってみる
自分の会社の一件で
型06 約束を書く
型6「約束を書く」。「この商品がなかったら、顧客は代わりに何をするか」を三つ書き、それぞれと比べたときの自社の「顔」を一行ずつ書きます。そのうえで、今の接点(カタログ、Web、営業、販売パートナー)が何と比べた言葉になっているかを並べます。
- 誰に
- どんな場面で
- 何と比べて
- 約束すること(条件つきで)
- 裏づけ
- 口で言う形
- 約束しないこと
本では
本では 『選ばれる理由のつくり方』
この話が、人のあいだでどう進んだか。
第7章。前の章の会議で、社長に聞かれたことから始まります。
「で、その工場には、何を言うんだ」
本について →本の該当箇所:第7章 第1〜5節