1正しい一行が、通じない
資料の一番上に、技術的には正しい一行を書いた。「コンパクト筐体による短工期据付を実現」。販売パートナーの担当者は、しばらく眺めて言います。
「設置が早い、というのは分かります。ただ、お客さんの社長に見せたら、ラインが何日止まるのかを聞かれますよね。工場長には、何て言えばいいんですか」
紙のどこにも、顧客が口にしそうな言葉が出てきません。
2機能・便益・根拠を分ける
- 機能 商品が持っている性質。本体の幅が1,200ミリ。毎日の操作は三つ
- 便益 その機能で、顧客の何がよくなるのか
- 根拠 その便益を信じてよい理由(裏づけ)
会社がつくる資料は、機能に偏ります。手もとにある事実なので、書きやすいからです。顧客が知りたいのは便益ですが、機能から便益への橋を、顧客が自分で架けてくれるとは限りません。
約束と顧客の気がかりを先に置いて、それに答える機能を探します。機能から便益をひねり出すのは、逆です。
3「だから、どうなる」を二回たずねる
| 機能 | だから、どうなる | だから、どうなる(顧客の場面) | 根拠と、当てはまる条件 |
|---|---|---|---|
| 本体の幅が1,200ミリ | 多くの搬入口を、そのまま通る | 製造を止めずに入れられる | 一歩めは寸法から言える。二歩めは、下見で床や電源を確かめた工場に限る |
| 毎日の操作は三つ | 覚えることが少ない | 人が入れ替わっても、現場が回る | 次の朝に全員へ教え、手順を壁に貼る。その日に使えるかは、次の数社で確かめる |
| 一時間に洗える数が多い | 早く片づく | 量の多い工場では、人手が大きく減る | 量の多い工場に限る。人手の減り方は、まだ測っていない |
(業務用の洗浄機の例)
書く側の頭の中では、話がその先へ一息に進みます。幅が小さい→工事がいらない→休みの日に終わる→製造を止めない。けれども、幅の数字が裏づけているのは、はじめの一歩までです。一歩ごとに、何がそれを裏づけているのか、どんな条件のときに当てはまるのかを書きます。
同じ機能でも、相手によって重さが違います。速さは、量の多い大きな工場には重い便益ですが、人手が足りない小さな工場にはそれほどでもありません。答えにならない機能は、資料の主役から外します。
4書き手は、知りすぎている
あることをよく知っている人は、知らない人がどう受け取るかを、うまく見積もれなくなります。書く人は、商品を何年も見てきた人。読む人は、今日はじめて見る人です。
つまずくのは、三つです。
- 言葉 「据付」「筐体」のような、社内や業界の言葉。資料の言葉は、聞き取りの記録から拾う
- 前提 「休みの日に入れます」と聞いても、ふつうは何日か止めることを知らなければ、助かる話か分からない。比べるものを一緒に書く
- 飛ばした途中 書く人には当たり前すぎて、「搬入口をそのまま通るから」が抜ける
確かめるには、商品を知らない人に読んでもらい、その人の言葉で話してもらいます。誰の話か、何をしてくれるのか、次に何をすればよいのかの三つを言えたら通します。一度読んだ人はもう知っている側なので、毎回新しい人に頼みます。販売パートナーの担当者には、読んでもらうのではなく、声に出して言ってもらいます(「その説明を、代理店の担当者は自分の口で言えるか」)。
やりがちな間違い
A社の場合
架空の会社の例
A社のマーケティング課長、早川さんの下書きの一行めは「コンパクト筐体による短工期据付を実現」でした。代理店の担当者に言われて書き直し、口で言う形は「下見で確かめてから、休みの日に入れます。次の朝は、技術者が始業に立ち会います」になりました。早川さんは、部下と経理の担当者に読んでもらい、三つが言えるかを確かめました。
ほかの業種なら
A社 業務用の洗浄機
| 機能(例) | 幅1,200ミリ、操作は三つ |
|---|---|
| だから、どうなる(顧客の場面) | 製造を止めずに入れられる |
| 社内の言葉→顧客の言葉(例) | 短工期据付→休みの日に入れます |
B社 建材
| 機能(例) | 軽いパネル、決まった留め方 |
|---|---|
| だから、どうなる(顧客の場面) | 職人一人でも施工でき、工期が延びにくい |
| 社内の言葉→顧客の言葉(例) | 省施工→職人さんの手間が減ります |
C社 業務用のソフト
| 機能(例) | 画面が三つ、取引先ごとの設定 |
|---|---|
| だから、どうなる(顧客の場面) | 担当者が辞めても、受注が回る |
| 社内の言葉→顧客の言葉(例) | マルチテナント→取引先ごとに分けて使えます |
D社 計測の機器
| 機能(例) | 自動で測る、記録が残る |
|---|---|
| だから、どうなる(顧客の場面) | 検査が決まった時間で終わり、取引先に記録を出せる |
| 社内の言葉→顧客の言葉(例) | トレーサビリティ→記録をそのまま出せます |
A社のほかは、考えるための仮の例です。
選んだ業種は、ほかの記事でも最初に開きます(この端末の中だけに残します)。トップでも選べます。
理解を確かめる
問1「本体の幅が1,200ミリ」は、機能・便益・根拠のどれでしょうか。答えを見る
機能です。「だから、どうなる」を二回たずねて、顧客の場面の便益(製造を止めずに入れられる)までつなげ、一歩ごとに根拠と条件を書きます。
問2資料が伝わるかを確かめるとき、読んだ人に言ってもらう三つは何でしょうか。答えを見る
誰の話か、何をしてくれるのか、次に何をすればよいのか。
やってみる
自分の会社の一件で
型06 約束を書く
型6「約束を書く」。自社の商品の機能を三つ選び、「だから、どうなる」を二回たずねて、顧客の場面まで書きます。各段に、根拠と当てはまる条件を添えます。答えにならない機能には、印をつけます。
- 誰に
- どんな場面で
- 何と比べて
- 約束すること(条件つきで)
- 裏づけ
- 口で言う形
- 約束しないこと
本では
本では 『選ばれる理由のつくり方』
この話が、人のあいだでどう進んだか。
第11章。下書きを見た代理店の担当者の一言から始まります。
「工場長には、何て言えばいいんですか」
本について →本の該当箇所:第11章 第1・2・3節