1十何枚の表は、誰も読まない
会議室の壁が、表でいっぱいになっている。相手の比較、約束、導入の流れ、総額の表、分担の表、試しの結果。社長は壁を眺めて言います。「ここから先、うちは何をやるんだ。一枚にしてくれ」。
十何枚を一枚にまとめるのは、乱暴に思えるかもしれません。けれども、表は、考えるための道具です。ほかの人と一緒に動かすには、別のものが要ります。 営業も、技術者も、販売パートナーの担当者も、十何枚の表は読みません。
2一枚の計画:戦略から、やらないことまで
| 欄 | 書くこと |
|---|---|
| 戦略 | 誰に、どんな場面で、何と比べて、何を約束するか(合言葉も) |
| 目標 | 何を、いつまでに、どれだけ。何で数えるか |
| 課題と仮説 | 目標と今との開き。なぜそうなっているかの、まだ確かめていない説明。説明できていないことも |
| 施策 | 商品とサービス、価格、経路、伝え方、買ったあと |
| お金と人 | 予算(使う分と留保する分)。人の日数(一番足りないもの) |
| 見るもの | 実行できたか/障壁はどう変わったか/売上は動いたか |
| 見直す日と条件 | いつ、誰が、何がどうなっていたら、どうするか |
| やらないこと(いつまで) | 今期を通してやらないこと。前半だけやらないこと |
欄は、上から下へ理由でつながっています。戦略があるから目標の相手が決まり、開きから課題が出て、仮説があるから施策が選べる。仮説は外れるかもしれないので、見るものと見直す日を置き、人もお金も限られているので、やらないことを、いつまでかと一緒に書きます。
読む人によって、見る欄が違います。 営業は施策と見るものを、技術者はお金と人を、社長は見直す日と条件を見ます。販売パートナーに見せるのは、施策のうち分担に関わる行だけです。
「やらないこと」は、一番書きにくい欄です。広告も展示会も、やれば何かしらの効き目はあるからです。それでも書いておくと、人と時間が、戦略に書いた相手の困りごとに集まります。書いておかないと、期の途中で誰かが、良かれと思って始めます。
3決める前に、関係者に見せる
下書きを、決める前に見せます。聞くことは一つです。
「この中で、無理なところはどこですか」
技術者が日数を書きかえる。営業の責任者が、自分が受け持つ一行を書き足す。販売パートナーが、「うちだけ先にやって、あとで条件が違うと困る」と言う。決める前に見せるのは、合意を取るためというより、無理なところを先に出してもらうためです。 計画を書く人ではなく、実際に行く人に聞きます。
4つながりを点検する
ちぐはぐが起きる場所は、決まっています。
- 戦略と施策のあいだ:施策の一つひとつに「なぜなら」をつける。戦略の言葉につながらない施策があったら、立ち止まる
- 施策どうしのあいだ:資料に「毎年の費用まで先にお見せします」と書きながら、営業が「今月中ならお安くします」と言えば、費用を先に見せて信頼してもらう進め方が崩れる
- 計画と、ふだんの仕組みのあいだ:計画は「中小の相手を先に」と言っているのに、営業の成績が受注の金額だけで見られていれば、大きな相手を追ったほうが成績は上がる
会社は、ある行動を望みながら、別の行動に報いていることがあります。人は、報われるほうの行動を取ります。営業の担当者が計画どおりに動かないとき、見直したほうがいいのは、多くの場合、その人より、成績の決め方のほうです。 販売パートナーの担当者も同じです。
やりがちな間違い
A社の場合
架空の会社の例
A社のマーケティング課長、早川さんは、十何枚の表を一枚の計画にまとめ、決める前に営業部長、技術者の大西さん、代理店の担当者に見せました。大西さんは「20日は、うまくいったときの数字だ。25日で見てくれ」と日数を書きかえ、営業部長は「一枚を一社ずつ、は俺が回る」と書き足しました。やらないことの欄には、カタログの刷り直しと、期限で急がせる値引きなど(今期を通して)、新しい広告と展示会の追加(前半の半年)を、いつまでかと一緒に書きました。
ほかの業種なら
A社 業務用の洗浄機
| 戦略の一文(例) | 人手が足りない工場に、止めずに入れると約束する |
|---|---|
| 一番足りないもの(お金と人の欄) | 技術者の日数 |
| やらないこと(例) | カタログの刷り直し(今期) |
B社 建材
| 戦略の一文(例) | 職人が足りない工務店に、一人で施工できると約束する |
|---|---|
| 一番足りないもの(お金と人の欄) | 施工の説明に回る技術営業の時間 |
| やらないこと(例) | 新しい工法の開発の前倒し(今期) |
C社 業務用のソフト
| 戦略の一文(例) | 手作業の受注が多い卸に、切りかえで受注を止めないと約束する |
|---|---|
| 一番足りないもの(お金と人の欄) | 導入を支える担当者の時間 |
| やらないこと(例) | 独自のつくり込みの受注(今期) |
D社 計測の機器
| 戦略の一文(例) | 記録を求められる部品メーカーに、記録をそのまま出せると約束する |
|---|---|
| 一番足りないもの(お金と人の欄) | 据え付けと校正の技術者の日数 |
| やらないこと(例) | 範囲外の精度への対応(今期) |
A社のほかは、考えるための仮の例です。
選んだ業種は、ほかの記事でも最初に開きます(この端末の中だけに残します)。トップでも選べます。
理解を確かめる
問1一枚の計画を、決める前に関係者に見せるのはなぜでしょうか。答えを見る
合意を取るためというより、無理なところを先に出してもらうためです。決めたあとに出た無理は計画を止め、決める前に出た無理は計画を直します。
問2営業の担当者が計画どおりに動きません。まず何を見直しますか。答えを見る
成績の決め方。計画と違う行動に報いていないかを確かめます。
やってみる
自分の会社の一件で
型12 一つの計画
型12「一つの計画」。戦略・目標・課題と仮説・施策・お金と人・見るもの・見直す日と条件・やらないこと(いつまで)の八つの欄を埋めます。施策の一つひとつに「なぜなら」をつけ、戦略の言葉に届くかを確かめます。決める前に、関係者に「無理なところはどこですか」と聞きます。
- 戦略
- 目標
- 課題と仮説
- 施策と「なぜなら」
- お金と人
- 見るもの
- 見直す日と条件
- やらないこと(いつまで)
- 決める前に見せた記録
本では
本では 『選ばれる理由のつくり方』
この話が、人のあいだでどう進んだか。
第18章。三か月の試しの報告が終わったあと、社長は壁を眺めて言いました。
「二社で試したことは分かった。ここから先、うちは何をやるんだ。一枚にしてくれ」
本について →本の該当箇所:第18章 第1〜4節、付録1