1「広告か、営業か」で止まる会議
契約が増えない。会議では、たいてい二つの声が出ます。「問い合わせの質が悪い。広告が弱いからだ」「問い合わせは渡している。そのあとどうなったかが戻ってこない」。
どちらも、手元にある材料だけで原因を探した結果です。見えるところから直したくなるのは自然なことですが、材料が足りないまま原因を決めようとすると、話は誰の責任かに向かいます。
聞くことを、「顧客は、どこで止まっているのか」に変えます。すると探す範囲が広がり、関わる全員で確かめにいける話になります。
営業とマーケティングで、優先することが食い違うのは、めずらしいことではありません。受け持つ数字も、見ている材料も違うからです。だからこそ、どちらの責任かを決めるより先に、顧客の側の問いに置きかえます。
2顧客が払っているのは、代金だけではない
顧客が見比べているのは、受け取る価値と、払うものの全部です。
- お金 本体の代金と、毎年かかる費用
- 時間 調べる、比べる、導入を待つ
- 手間 社内を説得する、やり方を変える、使い方を覚える
- 不安 うまくいかなかったら、どうするか
見積もりのあとで止まる理由が、毎年の費用や、設置で仕事が止まる日数や、故障したときの不安にあるなら、本体の価格を下げても、その三つは一つも減りません。 広告の出来とも、営業の熱意とも、別のところです。
だから、マーケティングの範囲は「伝える」より広くなります。米国マーケティング協会の定義も、マーケティングを価値のある提供物を「つくり、伝え、届け、交換する」活動としています。日本マーケティング協会が2024年に改めた定義も、伝えることだけをマーケティングとは呼んでいません。
3「どうやって」の前に、「誰に、何を」
- 戦略 誰に、何を約束するかを決めること
- 施策 その約束を形にして届けること(商品とサービスの中身、価格、販売経路、伝え方、導入後の支え)
会議は、たいてい逆の順で進みます。「動画をつくろう」「展示会を増やそう」というどうやっての話から始まり、誰に何を約束するのかは決まらないままです。
仮でいいので、「誰に、何を」を一文にしてみます。当たっているかは、あとで確かめます。一文があるだけで、ばらばらだった施策の直し方がそろいます。そして、誰に、を決めることは、誰を後回しにするかを決めることでもあります。
4全体を見る。ただし、全部を自分で変えない
見積書は営業、設置は技術者、代理店との取り決めは営業部長と社長。マーケティング担当者が自分で動かせるのは、多くの場合、広告やWebや資料のような「伝える部分」です。
全体を見ることと、全部を自分で変えることは、別の話です。 変えたいことを、三つに分けます。
| 区分 | 例 | マーケティング担当者がやること |
|---|---|---|
| 自分の担当範囲で進められる | 問い合わせの文面と、展示会で聞かれた質問を集める。資料の説明の順を直す | 目的と、何を見るかを決めて進め、結果を共有する |
| 誰かと合わせて進める | 止まった案件を営業と振り返る。見積書に毎年の費用を載せる | 相手の負担と受け持ち、期間を先に聞き、一件から試す |
| 決裁や契約の確認が要る | 故障時の対応を代理店と取り決める。価格や値引き | 事実、選択肢、影響、判断してほしい点をそろえて出す |
どの区分に入るかは、役職では決まりません。会社ごとの権限と、契約によります。
やりがちな間違い
A社の場合
架空の会社の例
業務用の洗浄機をつくるA社(架空)。この一年、工場の事情まで聞けた相談が100件、見積もりが60件、契約は20台。マーケティング課長の早川さんは広告をつくり直し、営業部長の黒田さんは訪問を増やしましたが、契約は変わりませんでした。見積もりのあとで返事をしなくなった工場の気がかりは、設置で止まる日数、毎年の費用、故障したときの対応。どれも、広告の担当範囲の外でした。
ほかの業種なら
A社 業務用の洗浄機
| マーケティング担当者が動かせるもの | 広告、Web、展示会、カタログ |
|---|---|
| 担当範囲の外にあるかもしれない止まり方 | 設置の段取り、毎年の費用、故障時の対応 |
B社 建材
| マーケティング担当者が動かせるもの | カタログ、施工事例のページ、展示会 |
|---|---|
| 担当範囲の外にあるかもしれない止まり方 | 施工の手間、工期への影響、販売店の在庫 |
C社 業務用のソフト
| マーケティング担当者が動かせるもの | Web、資料、オンラインの説明会 |
|---|---|
| 担当範囲の外にあるかもしれない止まり方 | データの移行、二年めからの利用料、導入の支援 |
D社 計測の機器
| マーケティング担当者が動かせるもの | カタログ、展示会、技術資料 |
|---|---|
| 担当範囲の外にあるかもしれない止まり方 | 校正と保守の費用、検査の手順書の書き直し |
A社のほかは、考えるための仮の例です。
選んだ業種は、ほかの記事でも最初に開きます(この端末の中だけに残します)。トップでも選べます。
理解を確かめる
問1契約が増えない理由を探す会議で、最初に変えるとよいのは、どれでしょうか。A 広告の文面 B 営業の訪問の回数 C 会議で聞くこと答えを見る
C。「広告か、営業か」ではなく、「顧客は、どこで止まっているのか」と聞きます。探す範囲が広がり、関わる全員で確かめにいけます。
問2「故障したときの対応を、代理店と取り決める」は、三つの区分のどれに入ることが多いでしょうか。答えを見る
決裁や契約の確認が要る。マーケティング担当者は、事実・選択肢・影響・判断してほしい点をそろえて出します(ただし、会社ごとの権限と契約で変わります)。
やってみる
本では
本では 『選ばれる理由のつくり方』
この話が、人のあいだでどう進んだか。
第1章。A社の月例の会議で、社長が二人の顔を見て言った一言から、一年が始まります。
「で、どっちなんだ」
本について →本の該当箇所:第1章 第1・3・5・7節