1何も変えていなくても、これだけ揺れる
社名のない算数から始めます。見積もりが契約になる見込みが、ちょうど五分五分だとします。それでも、十件のうち五件ちょうどになるのは、四回に一回ほど。三件以下か七件以上になることが、三回に一回ほどあります。
何も変えていなくても、十件ではこれくらい揺れます。 人は、少ない数の結果でも全体の姿をよく映しているはずだ、と思いこみがちです。統計の訓練を受けた研究者でさえそうだった、という報告があります。
2三件中二件の「七割」
見積もり三件につき契約一件、という会社で考えます。試しの三か月で、三件のうち二件が決まった。「七割だ」と言いたくなります。
| 仮に出たとする数字 | 何も変わっていなくても、これ以上になる見込み |
|---|---|
| 見積もり3件のうち契約2件 | 四回に一回ほど |
| 見積もり13件のうち契約6件 | 四回に一回ほど |
| 見積もり24件のうち契約12件 | 十五回に一回ほど |
(割合が三件に一件のままだと仮に置いた場合。数字は説明のためのもの)
一年たって目標どおりの数字が出ても、何も変わっていなくても十五回に一回は出る数字です。効いたと考えて矛盾はしませんが、証明とは呼べません。
逆の見落としもあります。本当に良くなっていても、少ない件数では目標に届かないことがあります。数字が動かなかったからといって、効かなかったとも言えません。 同じ販売パートナー、同じ時期の案件は似た動きをするので、実際の揺れは計算より大きいと思っておきます。
3この見込みは、何の確率でもない
「何も変わっていなくても、これ以上になる見込み」は、「効き目がない確率」でも、「この差がたまたまである確率」でもありません。効き目がないと仮に置いたとき、めぐり合わせだけで、その数字以上が出る見込みです。
一つの数字が、ある線を超えたかどうかだけで、事業の判断を下すべきではない、という考え方もあります。「二十回に一回を下回れば本物」という線が、世の中にあるわけではありません。
4件数を足せばいい、ではない
数が増えると、揺れは小さくなります。ただ、結果を見たあとで、差がはっきりするまで件数を足していく、という話にはなりません。良い数字が出たところで止められるやり方は、たまたまの上振れを拾いやすいからです。「もう三か月、様子を見ましょう」は、判断日を決めずに言う言葉ではありません。続けるなら、期間・数・見るもの・判断の条件を、もう一度先に書きます。
5その差に、仕事としての意味はあるか
「たまたまではなさそうだ」と「やる価値がある」は、違います。価値があるかは、差の大きさ、相手の数、一件あたりの利益を掛けたものと、かかる手間との見比べで決まります。
数が少ないときは、平均にも気をつけます。平均は、かけ離れた一つに引っぱられます。四件の下見のうち一件だけ一日かかったなら、平均より、並べたときの真ん中の一件(半日)と、その一件の中身を見ます。
やりがちな間違い
A社の場合
架空の会社の例
A社の営業部長は、試しの計画を見て言いました。「二社で三か月なら、見積もりは3件くらいだぞ。1件決まれば三割、2件決まれば七割だ。それで、何が言えるんだ」。言うとおりでした。A社は、契約の割合で判定するのをやめ、三か月で答えが出る問い(このまま広げてよいか)に絞りました。そして、実行の数、止まった理由、相手の言葉、技術者の日数、採算を重ねて決めました。
ほかの業種なら
A社 業務用の洗浄機
| 少なくなりがちな件数 | 年に数十件の見積もり |
|---|---|
| 割合のかわりに重ねる材料 | 実行の数、止まった理由、相手の言葉、技術者の日数 |
B社 建材
| 少なくなりがちな件数 | 一つの販売店からの採用件数 |
|---|---|
| 割合のかわりに重ねる材料 | 手順書が使われた現場の数、職人の声、工期 |
C社 業務用のソフト
| 少なくなりがちな件数 | 一つの代理店からの契約数 |
|---|---|
| 割合のかわりに重ねる材料 | 試算を出した件数、止まった理由、導入の手間 |
D社 計測の機器
| 少なくなりがちな件数 | 年に数十件の引き合い |
|---|---|
| 割合のかわりに重ねる材料 | 試しの測定の件数、止まった理由、技術者の日数 |
A社のほかは、考えるための仮の例です。
選んだ業種は、ほかの記事でも最初に開きます(この端末の中だけに残します)。トップでも選べます。
理解を確かめる
問1見積もり三件のうち二件が契約になりました。これで「効いた」と言えるでしょうか。答えを見る
言えません。割合が三件に一件のままでも、四回に一回ほどは出る数字です。実行の数や止まった理由の変化など、別の材料と重ねて読みます。
問2結果が思わしくないので、「もう三か月続けて様子を見よう」と言われました。何を先に決めますか。答えを見る
期間、数、見るもの、判断の条件。判断日を決めずに続けると、良い数字が出たところで止めてしまいやすくなります。
やってみる
本では
本では 『選ばれる理由のつくり方』
この話が、人のあいだでどう進んだか。
第17章。この節の算数は、言い訳のためではなく、三か月後に「で、何台売れたんだ」と聞かれたときの備えとして出てきます。
本について →本の該当箇所:第17章 第4・6節、第16章 第4節(表16-1)