1「全部に配れ。早いほうがいい」
新しい資料と見積書ができた。「全部の代理店に配れ。早いほうがいい」。気持ちは分かります。
ただ、全部に配って使われなかったら、資料のせいか頼み方のせいか、分からなくなります。一度出すと戻しにくいもの(見積書の様式など)もあります。全部に配って一年待てば数字は手に入りますが、良くなっても、配ったおかげなのかは、そのやり方だけでは分かりません。
大きく賭ける前に、小さく試します。 目的は、学ぶことです。問いかけを「うまくいくだろうか」から、「何が分かれば、次の判断に進めるだろうか」に置きかえます。
2四つの試し方
| 試し方 | 分かること | 分からないこと |
|---|---|---|
| 見せる(仕上げる前の案を、使う人に見せる) | 伝わるか、どこで止まるか | 実際に使うか、買うか |
| 使ってもらう(限られた相手に実際に) | 使われるか、どこで止まるか | お金を払ってもらえるか |
| 限って使う(場所や期間を区切って) | 実際の流れで回るか | 変えたことが効いたのか |
| 分けて比べる(相手を二つに分け、片方だけ変える) | 変えたことが効いたのか | 件数がないとできない |
下にいくほど手間はかかりますが、上のものの代わりにはなりません。上の二つは速く回せます。下書きを見せるのに週をまたがず、止まったところを直して翌週もう一度見せる。手間のかかる試しに何か月もかけるのは、こうした速い試しで、伝わらないところをつぶしてからです。
下書きを AI に頼めば、見せる試しはもっと速く回ります。ただし、AI に「相手ならどう思うか」を答えさせても、それは試しにはなりません。反応は、実際の相手からしか取れません。
3小さくする方法
- 相手を絞る:五社のうち二社で。協力的な一社だけにしない
- 期間を切る:三か月と決めて
- 中身を削る:仕組みをつくる前に、紙一枚と電話で
限って使うときは、見る数字を並べます。見積もりから契約に進む割合だけを見ていると、見積もりを出す件数が減っただけで割合は上がり、うまくいったように見えます。引き合い、下見、見積もり、契約の件数を、並べて見ます。
4決めたいことを、小さくする
「新しい資料で、契約の割合が上がるかを確かめる」。三か月で見積もりが三件ほどなら、これには答えが出ません。そこで、決めたいことを書き直します。
「この三つを、このまま残りの代理店に渡してよいか。直すなら、どこか」
決めたいことを、試す期間のうちに答えが出る大きさまで、小さくします。 契約が増えるかは三か月では分かりませんが、このまま広げてよいかは、三か月で分かります。
判断の重さに、証拠の重さを合わせます。資料を配る判断は、費用が小さく、やり直せる。だから、実行できたか・障壁はどう変わったか、の証拠で足ります。広告に大きな額を出す判断は重いので、もっと待ちます。軽い判断から、先に進めます。
5代理店に頼む
試しの実行は、代理店の担当者の手の中にあります。頼み方を先に決めます。
- 目的:何を決めたいのか
- 頼むこと:一つの場面に絞る(初回の訪問で資料を渡し、決めた順で話す。下見の前の五分の電話)
- かかる時間
- 戻すもの:三か月後に結果を持って報告に行く。止まった理由を共有する
- やめ方:使いにくければ、言ってほしい
書く仕事は頼みません。聞いて書くのは、こちらです。「試しているのは資料で、担当者の方ではない」も、先に言います。代理店の社長に先に話を通し、それから担当者に、の順で伝えます。
やりがちな間違い
A社の場合
架空の会社の例
A社は、新しい資料、総額の表つきの見積書、下見の前の技術者向けメモの三つを、代理店二社の案件だけで三か月試しました。段取りを知っていた担当者の代理店と、知らなかった担当者の代理店です。営業部長は自分の部下にも「新しい見積書は、三か月は待て。二社の試しが読めなくなる」と言いました。引き受けた担当者の一人は、「ただ、説明の順を変えるのは、お客さんによります」と言い、その一言は記録に残しました。
ほかの業種なら
A社 業務用の洗浄機
| 配りたくなるもの | 資料、総額の表つきの見積書 |
|---|---|
| 小さく試す範囲(例) | 代理店二社の案件で三か月 |
| 三か月で答えが出る問い | このまま残りの代理店に渡してよいか |
B社 建材
| 配りたくなるもの | 施工の手順書、試算の様式 |
|---|---|
| 小さく試す範囲(例) | 販売店二社の現場で三か月 |
| 三か月で答えが出る問い | このまま残りの販売店に渡してよいか |
C社 業務用のソフト
| 配りたくなるもの | 移行の手順書、試算の様式 |
|---|---|
| 小さく試す範囲(例) | 代理店一社の商談で三か月 |
| 三か月で答えが出る問い | このまま残りの代理店に渡してよいか |
D社 計測の機器
| 配りたくなるもの | 校正まで入れた見積書の様式 |
|---|---|
| 小さく試す範囲(例) | 商社一社の引き合いで三か月 |
| 三か月で答えが出る問い | このまま残りの商社に渡してよいか |
A社のほかは、考えるための仮の例です。
選んだ業種は、ほかの記事でも最初に開きます(この端末の中だけに残します)。トップでも選べます。
理解を確かめる
問1「見せる」試しと「使ってもらう」試しで、分かることの違いは何でしょうか。答えを見る
見せると、伝わるか・どこで止まるかが分かります。使ってもらうと、実際に使われるか・どこで止まるかまで分かります。どちらも、お金を払ってもらえるかは分かりません。
問2三か月の試しで、決めたいことを「契約の割合が上がるか」から何に書き直しましたか。答えを見る
「このまま残りに渡してよいか。直すなら、どこか」。期間のうちに答えが出る大きさにしました。
やってみる
自分の会社の一件で
型10 小さく試す計画
型10「小さく試す計画」。配りたいものを一つ選び、四つの試し方のどれで、誰と、何か月試すかを書きます。決めたいことは、その期間で答えが出る一文に書き直します。協力者への頼みごとは、目的・頼むこと・時間・戻すもの・やめ方の五つで書きます。
- 決めたいこと
- もとになる仮説と、正しければ見られるはずのこと
- 変えること
- 対象と期間
- 協力者と負担
- 見るもの(三段)
- 判断の条件(件数で。結果を見る前に)
- この試しでは確かめられないこと
- 途中でやめる条件
- 報告の約束
本では
本では 『選ばれる理由のつくり方』
この話が、人のあいだでどう進んだか。
第16章。資料ができたとき、営業部長は言いました。
「一枚と見積書は、できたんだろう。五社全部に配れ。早いほうがいい」
本について →本の該当箇所:第16章 第1・3・4・6節